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将来の年金受取額は現役比で約2割減の50.8%まで低下(2019年8月)

厚生労働省は、公的年金制度の財政検証結果を公表。これによると、将来の年金の給付水準(所得代替率)は、現在の61.7%から50.8%に2割近く下がる。この数字は、計算にあたって6通り置かれた経済前提の上から3番目のケース。

 

[コメント]

2000万円問題と並び、2019年上期に話題となったFP関連データ。メディアなどでもかなり騒がれた数字だが、かなり誤解が多いようである。

数字を見る上で最も押さえておかなければならない点は、これらの数字は「所得代替率」であり、年金の給付額自体ではないという点。

メディアで良く取り上げられている数字(報告書の中のケース3)を例に取ると、2019年度の新規裁定者の年金の所得代替率61.7%は現役男子の手取り収入35.7万円(月額)を夫婦の年金額22.0万円(月額)で割った割合。この時の年金の内訳は、夫の厚生年金9.0万円(月額)と夫婦の基礎年金13.0万円(月額)の合計。

同じく、2047年度の所得代替率50.8%は現役男子の手取り収入47.2万円(月額)を夫婦の年金額24.0万円(月額)で割った割合。この時の年金の内訳は、夫の厚生年金11.6万円(月額)と夫婦の基礎年金12.4万円(月額)の合計。

2割削減と騒がれているのは、この所得代替率自体を割り算して算出された結果と思われ(50.8%を61.7%で控除)、年金額自体を比較すると、このような数字にはならない。

まず、相談者に対して理解を求めるべきは、この報告書において、「年金の給付額自体が大幅に減る」といった事が示されている訳ではない、という点である(この時点で、既に誤解している相談者が多いように思われる)。

ある程度以上の深い理解を相談者にして頂く為には、マクロ経済スライドの考え方を理解して頂く必要も出てくるが、多くのケースでは、誤解を解いた上で、各相談者にとって必要な対策の為の数字の検討に入れれば問題ないと思われる。

なお、この報告書が前提としている家族モデル自体、相談者の実態と合致していないケースは多いはずであり、あくまで財政検証の為の一つの試算と割り切って見るべきだと思われる。

その他、報告書の検証の前提にも無理があるように感じられる所があり、一般の相談においては、この検証結果の数字が活用出来るケースは少ないと思われる。

余談だが、今回の財政検証結果の報告においては、被用者保険に加入する者の拡大が年金財政に与える影響などについても分析されている。これらの検討は、今後の制度設計において重要な意味を持つはずである。

また、この財政検証は、年金財政の健全性を検証する為に、法律によって少なくとも5年ごとに行われる事が決まっている。

 

[データ元]

厚生労働省

 

[データ時点]

2019年8月発表

 

[関連URL]

2019(令和元)年財政検証結果のポイント
https://www.mhlw.go.jp/content/000540198.pdf

国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し-2019(令和元)年財政検証結果-
https://www.mhlw.go.jp/content/000540199.pdf

厚生労働省 将来の公的年金の財政見通し(財政検証)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/index.html

朝日新聞 年金水準、高成長でも2割減 厚労省が30年後見通し
https://digital.asahi.com/articles/ASM8V4D13M8VUTFK00B.html